Experimental Biology '99 (1999年4月:ワシントンDC)
本学会は,米国内の実験生物学関係学会が合同で行うもので,免疫学と生理学,解剖学などの学際的共同研究が芽生える機会になることなどが期待され,大規模かつユニークなものです.私たちは今学会で,paired Ig-like receptor (PIR) のシグナル伝達に関する発表(小野),FcgRIIB欠損マウスにおけるコラーゲン誘導関節炎に関する発表(湯浅),Fcレセプター欠損マウスにおけるアナフィラキシーに関する発表(氏家)を行いました.また私たちのPIRやFcレセプター研究に直接に関係する発表が数多く見られ,またそのレベルも高いものでしたが,実際に使われているFcレセプター・ノックアウトマウスはその多くが高井らが作成したもの,およびその交配系統であること,そして私たちの報告がいずれもワークショップでの口頭発表の機会を与えられたところから見ても,私たちの研究報告のオリジナリティと充実度が認められていると自負できます.今後はこの学会での討論をもとにさらに私たちの研究内容のレベルアップを図り,さらにオリジナルな仕事を完成させていく必要があることを再認識しました.以下に主な関係演題の内容をいくつか報告します.
・Distinguished Lecture Seriesでは著名な研究者による講義がいくつか行われた.neonatal Fcレセプター(FcRn)は他のFcRとは違ってMHC class I構造を有していることが特徴的であるが,この三次元構造を初めて報告したBjorkmanがこの分野の最近の状況を議論した.膜面上でFcRnは単独でIgGを結合するわけではなく,ジグザグ構造,つまりIgGとFcRnとが二次元的に連鎖しあっている構造をとっていることを示唆した.最近のMHC欠損マウスでの結果から,FcRnが血中のIgGの代謝分解に関与していることが示唆されている一方,FcRnは新生児においてpH6の消化管粘膜上で母親のIgGを結合したのちvesicleとして取り込み,pH7.4の血中にIgGを放出する.このvesicleはどうして自分の運命を分解か輸送かに決定しているのであろうか,という問題提起がなされ,いくつかのモデルが提示された.膜面上でのFcRnとIgGとの結合状態が単純な1:1対応の独立した構造ではないとした示唆は私たちの研究対象であるFcRなどのレセプターにインパクトを与えた.実際に人工膜上でFcgRとIgGあるいはFceRIとIgEとの結合状態を調べると,意外にレセプターどうしの相互作用がダイナミックに行われていることが示せるのではないかという印象を持った.またアレルギーの成因を考察する際,やはりFceRI単独のストーリーでは成り立たず,FcgRやPIRを含めた他の関連レセプターの関与が膜上でのダイナミズムの観点からも十分あり得ると思われる.
・Eric Longらがオーガナイザーとなって最近のキラー細胞レセプターに関するシンポジウムがあった.スイス・バーゼル免疫研究所のColonnaはIg-like transcript (ILT.LIR/MIRなどとも呼ばれる)を多数見いだしたが,多くはNK細胞のみならず他の骨髄系細胞にも発現していることを示している.私たちはILTがPIRと極めて近縁関係の分子群であると考えているが,Colonnaは興味深いことにILT3/4がMHCと結合して樹状細胞のサイトカイン産生を抑制することを示した.またILT3とILT1の発現状態によって樹状細胞の分化が異なることを報告し,T細胞への抗原提示能にも相違があることも示唆した.これらのデータはPIRの今後の展開を考える上で大いに参考になる.なおPIRを発見したもうひとつのグループのKubagawaはPIRの最近の研究内容を報告した.残念ながら高井は他のセッションでの口演があったため聞けなかったが,聴講した人の感想を聞くと,PIRが妊娠の維持あるいは胎児の拒絶に影響を与えているかもしれないという考察があったとのことである.
・当研究室の口演での質疑応答:FcRb鎖とFcRg鎖がPIR-Aに会合する点に関して,膜detergent insoluble fractionに共凝集していることなどが原因で間接的な会合の可能性はないのかという疑問が投げかけられたが,それを否定する実験を行っていないことなどを回答した.この質問はIgEによるアナフィラキシーがFcgRIIB欠損マウスで亢進する点に関しても同様に座長から提起されたが,同様の返答にならざるを得なかった.コラーゲン関節炎がFcgRIIB欠損のH-2bハプロタイプのマウスで誘導されることの発表に関し,野生型マウスへ,関節炎を発症しているFcgRIIB欠損マウスの血清やマクロファージの移入により関節炎の誘導が行えるか,またマクロファージからの炎症性サイトカイン分泌の亢進とともに直接的ADCC活性の亢進の可能性はないのかという疑問が出され,それぞれ可能性はあるが直接的な証明の実験を行っていないことを回答した.今後,これらの指摘を参考に,これらの研究をさらに確固としたものにしてゆく必要がある.(報告:高井)
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