その2:『努力は無限』 『私はこれまで努力というのは有限だと思ってました。徹底的に遊びを排除して努力してもやはり寝る時間はとらねばなりません。しかしS選手が言った言葉に感銘を受けました。努力は無限であると。つまり努力を分子に,それ以外を分母にして分数として考えたときにそれ以外の分母を極限まで小さくすれば,努力は無限大になるんですね。』 −解説− これは先生の研究室出身者によって語り継がれている。S選手はロサンゼルスオリンピック代表の往年の名マラソンランナー。 ある日,医化学教室3Fのセミナー室に先生から全員集合がかかった。皆,「何かいな?」と思いながら実験の手を休めてぞろぞろ階段を上がって集まった。するといきなり,上述のお話が始まったのである。 いきなり何を言い出されるのか,最初はその意図がよくのみ込めなかったが,要するにお前達もS選手を見倣って,遊ばずに寝るのも惜しんで実験に精を出せ,極限までそういう生活を追究せよ,ということだろうと思った。「努力は無限」とは,実際には監督が言った事らしいが,先生はご自分よりもかなり若いS選手のような人がそのようなあっと驚く哲学を持って努力している事を知って感銘を受け,われわれにぜひとも伝えたかったのであろう。 当時の助教授はすかさず,「分母と分子を持ち出して無限を理解するところが先生らしいな」とコメントされていた。 ちなみに1999年に関係者に配布された「京都大学医学部医化学教室創設百周年記念誌」にてそこかしこに見られる語録によると,先生はかなり以前から「努力は無限」とおっしゃっていたふしがある。するとご自分でもなぜ無限になり得るのか腑に落ちない状態で檄のために事あるごとに言い続けておられた可能性がある。そこへ,上記の選手の発言があり,かなりお考えになってハタと分子と分母の関係に気付かれ,「そうやったんや!」と膝を叩かれたに違いない。 なおロスオリンピックでS選手は残念ながら不本意な成績に終わっているが,その走りは時代を画する,美しく完成されたランニングフォーム。なにせ,毎日70キロとか80キロとか走っていたらしく,マラソン練習を「走る座禅」と例えた。これはこれで至言。 |
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