『塩基配列の読み取りは誰でも100のうち90から95ぐらいまでは努力せずとも正しく読める.99%読める人も中にはいる.しかし□□さんは100%間違いなく読める.だから私は□□さんを信用する.』 −解説− DNA塩基配列の決定は,遺伝子情報の解読に不可欠な要素であることは今も昔も変わらない。今は機械に細胞から抽出したDNAサンプルをセットすれば一夜のうちに大量の塩基配列データを出してくれる。しかし一昔前は,手作業でSanger法を,さらに以前の1980年代前半は化学反応を利用したMaxam-Gilbert法という方法で,1人では扱い切れないような大きな,尿素入りのアクリルアミドゲルを使って電気泳動したあと,オートラジオグラフィーで塩基配列を肉眼で読んでいた。あの当時はハシゴのように見えるので塩基配列「ラダー」と呼んでいた。 Maxam-Gilbert法で出てくるラダーのパターンは独特のクセがある。Gは縮重し易く,ダンゴになりやすい,とかいろいろ。ダンゴ状態のGのラダーを無理矢理,「これはGが4本」だ,などと読んでしまい易い。250塩基ほど読んでくると,最後のほうはラダーが重なり合ったりしてさらに難しくなる。逆ストランド側の塩基配列を決定しないとこの読みが正しかったかどうかは分からない。上述の語録で重要なことは,□□さんは特殊な心眼をお持ちだったというわけではない。凡人は逆ストランドを確認することが手間ひまかかるので面倒くさくてつい,無理をして読んでしまうが,そこを無理矢理読むことをされなかった。怪しい配列になると,逆側の配列で文字通りウラをとるまで確定しなかったわけだ。塩基配列の間違いは,即,アミノ酸配列の予測間違いにつながるため,先生が極めて配列に慎重であったわけである。 このようなわけで,私たち素人が読む塩基配列は最初から,先生は信用しない。□□さんに読んで確認してもらったかどうか,を必ず聞かれた。「これから読んでもらうところです!」と報告すると,「よしっ!」と納得しておられた。 |
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