19. 研究費 

 院生だったその当時はその研究室がどのような経済状況で運営されているのか,知る由もない。

 科研費でさえ100万円もらえれば上出来の時代だ。遺伝子組換えで使う制限酵素などは1本数万円でかなり高かった。値段を気にせず我々はバンバン使っていたが。

 あるとき,次にこの実験をどうやるか,ということで先生と相談したときのこと。私は「これこれの方向だとこうだが,こっちのことをやると結構お金が高くつく」みたいなことを言った。すると先生は『ああ,お金の事はええんですわ。私らが気にすることですから,あなたたちは気にせんでええんですわ。』と。

 今から10年ほど前,私は当時の新技団から研究費をもらえることになったが,そのときにお世話いただいた推進室のかたから聞いた昔ばなし……あるときひょっこり新技団に先生が現れて,これこれこういうことをやりたいから研究費を下さい,という交渉だったそうだ。担当者はいろいろとお話を伺った上で,正規のルートで申請して頂くようにお願いした。最先端の仕事をしている自負がないとそういうことはできそうにない。