25. 医化学風呂 医化学教室の建物はコの字型になっていて,中庭にはアイソトープ実験棟や実習棟があったが,我々にとっては大事な風呂場がある。 その風呂は,実験に使う蒸留水を作るときに使う冷却水をコンクリの槽に貯めて周りをバラックで囲って屋根をトタンで葺いただけのもの。湯温は一定しないが,実験で夜遅くまで居残らねばならない我々にとって,貴重な風呂だ。これらの設備は,戦時中に野戦経験のある用務員のかたが作り,何かが壊れればいちいち直して維持して下さっていた。ちなみにこの用務員さんの部屋にはいつもだれかが雑談やら仮眠やらテレビを見るために,居た。朝,実験室に出勤せずにしばらく用務員室に避難しているようなひともいた。それに時々,実験で使った残りのニワトリや食用カエルをさばいて焼いて皆に食べさせてくれたりもしていた。 さて,3研の住人も妻帯者以外は,すっかり医化学風呂に世話になっていた。あの風呂はありがたい,湯加減も絶妙だ,ひとりでゆっくり好きなときに入れる,コンクリの浴槽の壁に背中を擦り付ければ垢もとれて気持ちいい,・・などとあれこれ雑談をしていると,3研の紅一点,Aさんが,「そんなにいいとこなら私も入ってみようかな」と言い出した。 3研の男達はあわてて,止めておいたほうがいいと言った。 |
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