28. 『ごう慢ですわ』

 大学院3年,4年ともなると,論文作業の中でいろいろ事件が起こり,そのたびにこっぴどく叱られた。大学院1年に入って2ヶ月ほど経ったころ『ああ,あんたは結構評判ええですからね。こっちのほうの仕事もやってもらおうと思うてます。』などとちょっとおだてられお褒め頂いた,いい思い出も吹っ飛んでしまう。

 『ああ,あんたちょっと来いや。』と3研の黒い電話経由で言われたら,覚悟して3階の教授室に行く。すると『そこ,ちょっと閉めえや。』と教授室と秘書室のあいだのドアを閉めさせられる。その次は窓のカーテンを引かれて向かいの免疫研究施設の建物から見えないようにされる。

 なかなか,自分の親にさえ言われたことのない辛辣なことを言われるとショックであるが,先生の説教ではショックの連発でふらふらになる。しかも夜中,お腹が空いているときに2時間の説教のあいだじゅう,立ちっぱなしだから余計だ。ちなみに先生は教授室のイスに座っている。

 たとえば以下のフレーズ。

 『あなたは傲慢ですね。どうしてそんな傲慢な人間になったんか,親の教育がよく無かったんでしょうね。いまさらどうしようも無いかもしれませんが,心を入れ替えてやるしかありませんわ。心を入れ替えてやるんか?どうなんや!』

 『なんであんたのミスの挽回のためにみんなが付き合わされなあかんのですか。ええ迷惑ですわ,周りは。昨日の晩も私もしんどいのにあんたのためを思って叱っとったんですわ。』(デスマッチ2日目)

 『あんたは傲慢なうえに嘘つきですわ。嘘つきは信用されませんし,研究者になんかなれませんね。無理ですわ。』

 それぞれの言葉にはアクションが付く。たとえばイスを蹴り倒しながら・・・である。我ながらよく泣かずに持ちこたえた。