31. 『それでも奥さんですか』

 先生は自分の研究室の人間は全て自分の知る範囲で行動しているべきであるとお考えだ。

 ペーパーワーク(論文書き)などで何かその人に聞きたいことがあれば,休みの日であろうが容赦ない。下宿や自宅に電話し,居なければ居場所を突き止めて問題が解決するまで追及する。

 あるとき,助手に何かを聞く必要が出来た。例によって休みの日だが…。自宅に電話する。すると助手の奥様が電話口に出る。

 『ああ,Nですが,○○さんは居ますか。』 

 「すみません,今,出かけております。」

 『どこに出かけてますか。』

 「分かりません。」

 『・・・・あなたそれでも奥さんですか。ご主人がどこに出かけているかも知らないんですか。』

 すると奥さんも負けてはいない。

 「私は主人を信じていますからっ!」

 しばしあって,先生は無言で電話をガチャ切りした。