33. 写真屋の居場所を突き止めろ

それは院の4年生の頃だ。助教授グループのイオンチャネルに関する論文のペーパーワークでの出来事。投稿の最終段階も近く,よって土日も関係なく医化学教室に来て先生の急な指示や調査に備える。4年もここに居れば学習を通り越してこれは習性だ。

さて,そのような日に論文の図版の写真を修正する必要が急に生じた。濃さを変える,という些細な修正だが。

いつも依頼する東一条の写真屋さんは,休日は閉まる。他の写真屋は信用していないから依頼などしない。
休みだろうが先生は容赦しない。

『この写真は今日,絶対必要や。写真屋にすぐにやってもらうように頼んでくれ。』

(「…今日は閉まっていると思いますが…」)→ こんな分かり切っていることは言わない。「はい,行って見て来ます」と言って東一条までとりあえず行く。習性だ。

当然,店は閉まっている。どうしよう… 
手ぶらで帰って「閉まってました」と報告したとすると
『ガキの使いじゃあるまいし』どころではなく,何を言われるか分かったもんではない。

そうだ。一応,交番が近くに有るじゃないか。其処であの写真屋の店主の家の電話番号を尋ねてみる事は無駄ではないかも知れない。努力の跡を見せねば…哀しい習性だが。

交番を訪ねた。
巡査に,かくかくしかじかで写真屋さんの連絡先を知りたい,と告げると,当然だが,「それは教えられない」との返答。
いや,それでも急いでいるのでそこをなんとか,と執拗に食い下がろうとするが,巡査は職務に忠実だ。しまいに怒り出して声を荒げる。「駄目だ!」

仕方なく引き下がる。どうしよう…このまま失踪しようか…

教室に戻って助教授の先生にこの顛末を報告すると,
「それ以上食い下がって銃で撃たれなくて良かった。もう止めとこ。N先生も納得するやろ。」
で何とか事なきを得た。