34. 『それはよぅないで』 研究活動をやっていく中では,必要な技術がラボに無くどうしても新しく導入する必要があれば,国内外の専門家のところにどんどん出かけて行って習ってきたり,数ヶ月間派遣されたりすることもある。これは京大医化学に限らず,どこでもそうだが。 当時,北海道から私と同年代の若いご夫妻が国内留学でしばらく先生のところに研究滞在していた。旦那さんと奥さんで,配属された研究グループは異なる。その旦那さんのほうが関係しているプロジェクトで,どうしても数ヶ月間,誰かに他大学に行ってもらって技術を習って来る必要が生じた。 誰に行ってもらうか決める,という段階で,先生をまじえて関係者数名で相談があった。(今ではなぜ私がその場に居たのか思い出せないが。) プロジェクト責任者の助教授は,その旦那さん(その場には不在)を指名する。 「先生,彼が適任ですよ。単身になりますが数ヶ月,行ってもらいましょう。」 私も同意見だった。私はこの提案で決まりだと思った。 ところが先生は,意外にも躊躇なく, 『いや,でも奥さんはどうするんや。それはよぅないで,夫婦別々は。』 ということでこの単身赴任案はあっさりと却下された。 当時,研究室の人間は多かれ少なかれ先生が家族と別居,しかも国外に居ることを知っていた。先生がこれほどまで奥さんや息子さんと離れて暮らしていることを気にやんでいたとは思ってもみなかったし,私は他への配慮の気持ちがなかったことを恥じた。 |
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