その8 『下宿よりも居心地がいいからみんな研究室で実験しとる』

                       01/02/2010

 私が岡山大学の修士課程2年生の秋,ここを出た後にどうも会社に行く気になれず,博士課程に進もうと思った。

 周囲に相談すると,助教授の先生曰く,京大のN先生のところは今まちがいなく日本の,あるいは世界のトップで,遺伝子工学でおもしろいクローニングをしている,行くならそこへ行け,と勧められた。

 何も知らない私は,助教授の先生がN研究室にいる後輩の留学帰りの助教授に連絡して面談日時を決めて頂いていたので,のこのこ京都まで出かけて行った。

 博士課程に行こうと思ったものの,同級生はほとんど就職していく中で,いろんな苦しい思いを無給でさらに4年,やらなけりゃならんのやな〜,まさに修行やな〜,などとぼんやり考えながら,医化学教室の飾り気の無い,ツタの絡まるかなり古びた3階建ての建物を見ると・・・刑務所のように見えないこともない。

 医化学教室に入って,くだんの助教授の後輩の先生を訪ねるが,部屋が沢山あってどこか分からない。ちょうどやってきた誰かに聞くと,「知らんけどもうじきセミナー終わってこのへんに降りてくるんとちゃう?」と冷たく言い放った。何となくいやな雰囲気だ。

 そうこうして助教授の先生にあいさつした後,いよいよ教授との面談。第一印象はどこかの映画俳優かと思わせるような端正なお顔立ち。しかもワッハワッハと何かにつけてよく笑われる。すっかり安心してしまい,いろいろお話して,1月の受験の段取りなども打ち合わせた。その話の中で印象に残った一言が上記である。

 『下宿よりもクーラー効いとるし居心地がいいから,みんな休みの日でもこっち来て実験しとるんですわ。わっはっは。』

 日曜日に下宿に居ても電話で『ああ,あんた何しとんや』と呼び出されることを知ったのは入学して間もなくの頃だ。