カラースライド

 パソコンの無い時代だから今のようにパワーポイントでスライドを作ることはできない。論文の図は手書き,複製は東一条(京大医学部の敷地の北東のところ)の写真屋さんに頼む。学会で使う青いスライドもこの写真屋さんだ。

 休日で写真屋さんが休みなのに論文の図を修正し,複製せねばならないことになると大変だ。先生は,写真屋の自宅に電話して今から複製してもらうよう頼め,と命令する。そんなアホな・・・と思いながら,仕方ないので写真屋さんのところまで行ってみる。当たり前だが,自宅の電話番号などご丁寧に貼ってはいない。

 「貼ってませんでした」と報告すると「努力が足りん!」と一喝されるのは明白なので努力の実績を作るためにとりあえず近くの交番に行って,どうしても仕事で写真屋さんの自宅の連絡先を知りたい,と告げると「そんなもんは教えられない」と言われる。当然だ。くどくど理由を連ねてしつこく頼み込むと,さすがに警官も怒って「無理だ,帰れ」となる。。。これ以上食い下がると銃で撃たれかねない。以下の話はこのようなアホなやりとりとは関係ない。

 その頃から,医化学を訪れてセミナーをする外国人講師のなかで,色鮮やかなカラースライドを使うひとが多くなっていた。濃いブルーと白抜き文字のありきたりのスライドを見慣れた私たちにはカラーがたいへん印象的だった。

 ある外国の学会に先生が招待され,講演をすることになった。先生は例の写真屋さんに頼んで,アミノ酸配列のアライメントなどをカラーで色づけしたスライドを何枚か作られた。そして3Fのセミナー室に全員集合がかかって,今から講演の予行演習をやるから聴いてから意見を言え,となった。

 くだんのカラースライドを使いながら先生が英語でプレゼン練習をされた。私は,講演内容よりも,そのカラースライドが残念ながらずいぶん「くすんで」見え,ほとんどカラー効果が無いことが哀しかった。プレゼンにはむしろ逆効果だ。それが先生の好むカラースタイルだったのか,それとも写真屋さんに鮮明なカラースライドを作る技量が無かったのかは今となっては分からない。

 教授が講演練習を我々に晒すかたちで行う,ということはこの事があったから,私も真似ている。・・・なお,現在あのような,色が付いているのか付いていないのか分からないようなおとなしい色使いをパワーポイントで見せれば,むしろ逆に新鮮かもしれない。