1.ニューヨーク到着まで

 1992年の正月気分もぼつぼつ終わった19日の朝,私たち家族は九州の某旅行会社に頼んだ格安航空チケットで伊丹空港から見知らぬニューヨークに向けて飛び立つ準備に追われていた。私は朝から岡山大学工学部と薬学部の先生方へ,1年間の留学の挨拶周りをしていた。伊丹発の○△航空ニューヨーク直行便は夕方だから昼すぎに岡山を出発すればよく,まだ十分余裕があった。

 突然に女房から電話があってすぐ家に帰れとのこと。聞くと,予約を取ってあった伊丹発の便が飛ばないことになったから今すぐ伊丹に行って午後の便で成田まで飛んで成田経由で夜のNY行きに乗れ,とその旅行会社から電話があったとのこと。携帯電話などない時代, NTTに電話回線を切ってもらう間際に「リリリ〜ン」と連絡が入ったそうで,寸前に,予定した日にNYに行けないという,出鼻をくじかれるようなトラブルを回避できた。ニューヨークのJFK空港には先輩ご夫妻が出迎えで待っていて下さっているはずだし。

 挨拶もそこそこに家に帰り,ばたばたと荷物をまとめて出発。タクシーで岡山駅に行こうとするが,途中で家の鍵を隣家に預けることを忘れたことに気がつきタクシーの運転手に戻ってくれるよう頼むと,あからさまに「ムッ」とされ,こちらもずいぶんげんなりする思いをした。

 ようやく伊丹に着き,団体客待ち合いの広場でごろごろ寝転がる子供達を放っておきながら時間待ちをして皆で成田行きに乗り込む。成田に着くと今度はトランジットの客たちでごった返す待合へ。イスが満席で地べたに寝転がっている外国人がごろごろ。航空会社のカウンターでチケット変更の手続き。この間に女房は肩から下げていたバッグの中身,何十ドルかの札束を落とした,という・・・さらに意気消沈。子供達は退屈して,どこから来てどこへ行くのやら分からない外国人たちと同様に地べたにごろごろ・・・

 乗り込んだ○△航空ニューヨーク行きは結構満席で,ジャンボのエコノミーの中ほどの4列席の前後に2人ずつで座る。小さな子供はぐずぐず言ったり泣いたりでおとなしくさせるのにぐったり疲れる。米国人とおぼしき女性客室乗務員,通路に落ちてしまったうちの子のクマさんリュックを脚で座席下に蹴り入れた・・・ふつうは手で拾って手渡してくれるぞ〜,日本人なら。 

 13時間に及ぶなが〜いフライトのあと,ようやくJFK空港に向けて降下を始めたとたん,飛行機はゆっさゆっさと半端じゃないぐらい揺れる揺れる。長旅疲れと出発時の気疲れ,これからの1年間のニューヨークでの生活を思い緊張感などで初めて飛行機酔いに見舞われる・・・気分悪い。