<1> 肺移植レシピエントの適応基準(肺移植関連学会協議会 2015年)
前文
2000年わが国最初の脳死臓器提供による肺移植が行われた。その後も臓器提供数はかぎられているが着実に症例数を重ね、2006年に肺移植は健康保険適応となった。さらに2010年改正臓器移植法施行後、脳死肺移植症例も着実に増加しているものの、移植希望患者数に比して提供臓器の不足は解消されていない。
肺移植関連学会協議会では、提供された臓器が脳死肺移植に適正に供されるために、レシピエントの移植適否判定の公平性を担保する目的で以下に示す肺移植適応基準と適応疾患を定めている。なお、近年の疾患概念と疾患分類の変化改訂を反映した適応疾患分類の改訂を2015年におこなった。
Ⅰ. 一般適応指針
- 治療に反応しない慢性進行性肺疾患で、肺移植以外に患者の生命を救う有効な治療手段が他にない。
- 移植医療を行わなければ、残存余命が限定されると臨床医学的に判断される。
- レシピエントの年齢が、原則として、両肺移植の場合55歳未満、片肺移植の場合には60歳未満である。
- レシピエント本人が精神的に安定しており、移植医療の必要性を認識し、これに対して積極的態度を示すとともに、家族及び患者をとりまく環境に十分な協力体制が期待できる。
- レシピエント症例が移植手術後の定期的検査と、それに基づく免疫抑制療法の必要性を理解でき、心理学的・身体的に十分耐えられる。
Ⅱ. 適応となり得る疾患
- 1 肺高血圧症
- 1.1特発性/遺伝性肺動脈性肺高血圧症
- 1.2薬物/毒物誘発性肺動脈性肺高血圧症
- 1.3膠原病に伴う肺動脈性肺高血圧症
- 1.4門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症
- 1.5先天性短絡性心疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(アイゼンメンジャー症候群)
- 1.6その他の疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症
- 1.7肺静脈閉塞症(PVOD)/肺毛細血管腫症(PCH)
- 1.8慢性血栓塞栓性肺高血圧症
- 1.9多発性肺動静脈瘻
- 1.10その他の肺高血圧症
- 2 特発性間質性肺炎(IIPs)
- 2.1特発性肺線維症(IPF)
- 2.3特発性非特異性間質性肺炎(INSIP)
- 2.3特発性上葉優位型間質性肺炎(IPPFE)
- 2.4上記以外のIIPs
- 3 その他の間質性肺炎
- 3.1膠原病合併間質性肺炎
- 3.2薬剤性肺障害
- 3.3放射線性間質性肺炎
- 3.4慢性過敏性肺炎
- 3.5上記以外のその他の間質性肺炎
- 4 肺気腫
- 4.1慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 4.2α1アンチトリプシン欠乏症
- 5 造血幹細胞移植後肺障害
- 5.1閉塞性GVHD
- 5.2拘束性GVHD
- 5.3混合性GVHD
- 6 肺移植手術後合併症
- 6.1気管支合併症(吻合部および末梢も含む)(狭窄など)
- 6.2肺動脈吻合部合併症(狭窄など)
- 6.3肺静脈吻合部合併症(狭窄など)
- 7 肺移植後移植片慢性機能不全(CLAD)
- 7.1BOS
- 7.2RAS
- 7.3その他のCLAD
- 8 その他の呼吸器疾患
- 8.1気管支拡張症
- 8.2閉塞性細気管支炎
- 8.3じん肺
- 8.4ランゲルハンス細胞組織球症
- 8.5びまん性汎細気管支炎
- 8.6サルコイドーシス
- 8.7リンパ脈管筋腫症
- 8.8嚢胞性線維症
- 9 その他、肺・心肺移植関連学会協議会で承認する進行性肺疾患
Ⅲ. 除外条件
- 1) 肺外に活動性の感染巣が存在する。
- 2) 他の重要臓器に進行した不可逆的障害が存在する。
- 悪性疾患 骨髄疾患
- 冠動脈疾患 高度胸郭変形症
- 筋・神経疾患
- 肝疾患(T-Bil>2.5mg/dl)
- 腎疾患(Cr>1.5mg/dl、Ccr<50ml/min)
- 3) 極めて悪化した栄養状態。
- 4) 最近まで喫煙していた症例。
- 5) 極端な肥満。
- 6) リハビリテーションが行えない、またはその能力の期待できない症例。
- 7) 精神社会生活上に重要な障害の存在。
- 8) アルコールを含む薬物依存症の存在。
- 9) 本人及び家族の理解と協力が得られない。
- 10) 有効な治療法のない各種出血性疾患及び凝固能異常。
- 11) 胸郭に広汎な癒着や瘢痕の存在。
- 12) HIV(human immunodeficiency virus)抗体陽性。