研究プロジェクト

(1)血管新生の分子制御に関する研究

血管は、全身の臓器に遍く分布し、それらの臓器機能を維持する必須の構造であることから、血管形成の分子機序を解明することは、あらゆる臓器の機能維持に関わる重要な情報を与えるものと期待される。成熟個体における血管新生は、癌をはじめさまざまな疾患の発症・進展と密接に関連していることから、抗血管新生剤の臨床導入が進められている。その一方で、狭心症・心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症などの虚血性疾患においては、血管を再生して虚血部位をサルベージする血管再生療法が注目されている。腫瘍循環研究分野では、血管新生の過程で血管内皮細胞に発現する遺伝子群を解析し、それらの遺伝子の中から血管新生の調節に関わる新規分子を単離・同定することで、新たな切り口で血管新生の分子メカニズムを解明すると共に、新しい治療法の開発に資することを目標として研究を進めている。

血管新生は、促進因子と抑制因子のバランスによって調節されている。これまでに多くの促進因子や抑制因子が報告されてきたが、ほとんどの因子は欧米の研究者によって同定されたものである。中でも血管内皮細胞に特異性の高い血管内皮増殖因子(VEGF)は特に重要な促進因子とされている。血管内皮細胞は、VEGFなどの促進因子の刺激に反応して種々の遺伝子を発現し、それら遺伝子産物が血管内皮細胞に作用して血管新生を調節すると理解されている。

腫瘍循環研究分野では、血管新生の過程で血管内皮細胞において機能する転写因子群(Ets-1, Runx-1, HEX, Vezf-1)に注目してそれらの機能の解析を進め、それぞれの転写因子の標的遺伝子を同定すると共に、血管内皮細胞に発現する転写因子には血管新生促進的に機能するもの、血管新生抑制的に機能するものがあることを明らかにして来た。

また、血管新生を調節する未知の遺伝子を得ることを目的に研究を進め、マウスES細胞が血管内皮細胞へと分化する過程で変動する遺伝子群をsubtraction法を用いて解析し、血管新生に関与する分子として新規アミノペプチダーゼをコードする遺伝子を単離・同定した。本分子は、ヒトやラットで報告されているPILSAPと相同性が高く、そのマウスカウンターパートと考えられた。本分子の発現はVEGFの刺激によって内皮細胞に誘導され、また、成熟個体の血管新生部位の血管内皮細胞において発現することが確認された。さらに、本分子の発現や酵素活性を阻害すると、内皮細胞の増殖と遊走、および血管新生が阻止されることから、血管新生において重要な役割を演じていると考えられた。

さらにVEGF刺激によって血管内皮細胞で発現誘導される遺伝子群の中から血管新生のnegative feedback 調節因子としての機能を果たすと考えられる新規血管新生抑制因子Vasohibin-1(VASH-1)とそのホモログVasohibin-2(VASH-2)を単離・同定した。VASH-1は血管新生のみならずリンパ管新生に対して広いスペクトルムで抑制活性を有しており、このような活性を持つ内因性因子はVASH-1が初めてのものである。特に、癌の発育と遠隔転移は血管新生に、リンパ管新生はリンパ節転移に直結することから、VASH-1の癌治療への応用を目指している。一方、VASH-2は、VASH-1と拮抗して血管新生を促進する作用がある。血管新生モデルでの観察では、VASH-1は主に発芽領域よりも後方の血管内皮細胞に発現して血管新生を終息させるのに対し、VASH-2は、主に血管新生が活発な発芽領域に浸潤している骨髄由来CD11b陽性の単核球に発現して、発芽部位の血管新生を促進することが分かった。今後は、がんやその他の病的血管新生におけるVASH-2の意義に関する研究を進める。

(2)腫瘍血流制御による癌治療の基礎的研究

固形腫瘍の病態生理、特に腫瘍微小循環動態は癌の治療に密接に関連している。近年、コンブレタスタチン A-4African bush willowから抽出された生薬)誘導体が選択的かつ不可逆的な腫瘍血流遮断作用を有し、癌への栄養供給を断つことにより広範囲の腫瘍壊死を誘導することを示した。同時に、その微小循環メカニズムと壊死誘導のプロセスを解明した。現在、この基礎的所見に立脚した癌治療、およびDDSへの応用研究を進めている。

 

最近の主要論文5編

Yamazaki, T., Akada, T., Niizeki, O., Suzuki, T., Miyashita, H., and Sato, Y.: Puromycin insensitive leucyl-specific aminopeptidase (PILSAP) binds and catalyses PDK1, allowing VEGF-stimulated activation of S6K for endothelial cell proliferation and angiogenesis. Blood 104:2345-2352, 2004.

 

Watanabe, K., Hasegawa Y., Yamashita, H., Shimizu, K., Ding, Y., Abe, M., Ohta, H., Imakawa, K., Hojo, K., Maki, H., Sonoda, H., and Sato, Y.: Vasohibin as an endothelium-derived negative feedback regulator of angiogenesis. J. Clin. Invest. 114: 884-886, 2004.

 

Kimura H, Miyashita H, Suzuki Y, Kobayashi M, Watanabe K, Sonoda H, Ohta H, Fujiwara T, Shimosegawa T and Sato Y. Distinctive localization and opposed roles of vasohibin-1 and vasohibin-2 in the regulation of angiogenesis. Blood 113:4810-4818, 2009.

 

Hosaka T, Kimura H, Heishi T, Suzuki Y, Miyashita H, Ohta H, Sonoda H, Moriya T, Suzuki S, Kondo T, Sato Y. Vasohibin-1 expressed in endothelium of tumor vessels regulates angiogenesis. Am. J. Pathol. 175:430-439, 2009.

 

Heishi T, Hosaka T, Suzuki Y, Miyashita H, Oike Y, Takahashi T, Nakamura T, Arioka S, Mitsuda Y, Takakura T, Hojo K, Matsumoto M, Yamauchi C, Ohta H, Sonoda H, Sato Y. Endogenous angiogenesis inhibitor vasohibin1 exhibits a broad-spectrum anti-lymphangiogenic activity and suppresses lymph node metastasis. Am. J. Pathol. 2010 (Epub ahead of print).