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市民公開講座 質問一覧

中村 仁信(大阪大学名誉教授・(医)友紘会 彩都友紘会病院長)
Q. 「放射線は怖くない」と話されておりましたが、全国的に取り組まれている年間1ミリシーベルト以下にするような除染作業は必要ないのでしょうか。
Q. 広島・長崎の人で数十年後に固形腫瘍が増加したというが、その程度は非被ばく集団と比べて違いがあるか。
Q. 内部被ばくによる影響について、具体的な数値として解っている事はどれくらいの事なのか。
Q. 「放射線ホルミシス」は専門家の間でどれくらい支持されているのか。
Q. すでに核実験で広がっている大気圏の放射線量について、癌リスクをどう評価するのか。
Q. チェルノブイリの子供の癌死亡数は少なく見えますが、6845人が癌になった事はどう考えるのか。
Q. 放影研の14報で「放射線による死亡リスクにはしきい値はない」という論文が出ているようですが、矛盾するのではありませんか。
Q. 塗料にラジウムを使っている時計が家にあるのですが、この時計はどのくらい放射線量があるのか。
Q. 町の線量計測定所で計測してもらった(測定線種はセシウム)、精米(8ベクレル)(100g当たり)を1日300g、365日食べた場合、1年間当たり何シーベルトを被ばくした事になるのでしょうか。
Q. 先生はICRPにおられたにも関わらず、ICRPプロパーの説明をなさらず、ホルミシス、閾値説を重視されています。なぜICRPプロパーの説明をなさらないのですか。
Q. 今回の福島の自己で特に母親層が放射線について根拠の無い過度な拒否反応を示しているように感じられるが、こうした方々への対応はいかにあるべきか。
Q. 外部被ばくより内部被ばくの方が安全という理由をもう少し解りやすく教えて下さい。
Q. チェルノブイリの事故の影響について大人と子供の影響が異なるという結果でしたが、その場合のしきい値は何に(体重、摂取量等?)依存したものになるのでしょうか。
Q. 低線量かつ長期被ばくの影響はないとのことですが、それならば今後調査していく医療の専門機関などは必要ないのではないでしょうか。

木下冨雄(京都大学名誉教授・(財)国際高等研究所フェロー)
Q. 「マスコミこそ最強のコミュニケーターになるべき」と言うのがマスコミの最大の任務・役割と考えるが、これをいかに具体的に実現していくのか?その方策についてお考えがあればお聞かせ下さい。
Q. 放射線問題において認められるリスク認知のバイアスは、日本人心理に特に顕著なものでしょうか。
Q. 公正な第3者組織(NRCのようなもの)ができそうだという事ですが、具体的な情報を教えて下さい。NRCとはどのような組織か。NRCにコミュニケーター的な役割を果たす機能があるのですか。
Q. 妊婦さんが不安になって産婦人科に行くのは見当違いという事でしたが、放射線科の先生が身近にはいないのではないでしょうか。
Q. 「放射線は危険」と言う専門家が市民から称えられ、「放射線は安心安全」と言う専門家は御用学者と揶揄されているが、今回の事故で大きな影響は出ないと思う。どのように考えるか。
Q. リスク回避のために命を失うごとき愚行を冒してしまった時、この事をどの様にとらえるべきか。
Q. 市民に分かりやすく伝える必要性を考えて下さって大変有り難いのですが、先生は放射線についての影響の有無等をどのようにお考えなのですか。

室山 哲也(NHK解説委員)
Q. 「マスコミの連携について」いままでどのうような連携があったのか。また、どのような点に問題があったのか、具体的に今回の大震災の例があればおしえて頂きたい。
Q. ポピュリズムに偏った報道が多すぎると感ずるが、これに対してどのように考えるか。
Q. 専門ジャーナリストの育成はレベルの限界があるのではないか。むしろ専門家をジャーナリストとして養成した方が正確な情報が提供されるのではないか。
Q. 報道というのは誰のための(何のための)ものと考えていますか。
Q. チェルノブイリ原発事故、広島長崎での原爆投下のデータが報道されないのはなぜか。
Q. 「放射能」という用語の意味を教えて下さい。
Q. 一部の新聞・ラジオでは(例えば電力会社に対するバッシングなど)極めてイデオロギー的な報道(偏向した報道)がなされているように感じるが、確度の高い信頼できる情報というのはいかにして入手すべきか。
Q. メディアリテラシーを身につける方法があれば(本など)教えて下さい。
Q. マスコミは放射線の専門家として物理学の専門家に聞くが、放射線生物学の専門家に聞かないのはなぜか。何を基準に専門家を選ぶのか。
Q. 原発の報道で、NHKに対して信頼出来なくなりました。信頼回復の方策はあるのでしょうか。

中村 典((公財)放射線影響研究所主席研究員)
Q. 「100ミリシーベルト」以下の被ばくにより少しリスクが増える可能性があると仰られていましたが、楽観視しすぎている数値ではないのか。
Q. 「LNT仮説」を支持しますか。「放射線ホルミシス」を支持していない根拠はどういったものがあるのか。
Q. 放射線レベルには地域差があるというお話でしたが、人間が放射線耐性を獲得する可能性はありますか。
Q. 放影研の14報で「放射線による死亡リスクにはしきい値はない」という論文が出ているようですが、矛盾するのではありませんか。
Q. がん因子を持っている人だけが放射線をあびる事によって、がんのリスクが高まるのか。
Q. 検出できなかったという事を科学者ははっきり言うべきではないか。
Q. しきい値の考え方を教えて下さい。20ミリシーベルトで心配無しとの事ですが、外部被ばくし続けていても大丈夫ですか。
Q. 福島県相馬市に実家があります。国で決められた警戒区域外は安全という理解で良いのでしょうか。
Q. 測定機で簡単に測れないアルファ線の被ばく量をどうやって見積もるのでしょうか。
Q. 現在、放射線の生物・人体への影響に関する情報もかなり整理されてきているように見られます。にも関わらず、未だに「解らない」という事を強調する報道が多いように思われます。このような状況についてどのように考えられますか。
Q. 1.01倍の発がん率アップというのは、100人いたら1人が追加的にがんを発症するという意味ですか。
Q. 福島原発事故被災者の被ばく線量毎の健康リスクの推定に瞬間被ばくである原爆生存者の線量別健康影響を当てはめて間違いでない根拠は何ですか。
Q. 放射線影響研究所で報告された「原爆被爆者の死亡率に関する研究第14報」についてLNT仮説が証明されたのでしょうか。これは医療被ばくや環境被ばくにも当てはまるのでしょうか。
Q. 中村仁信氏のホルミシスの話に関する反例があればお願いします。

中村 仁信(大阪大学名誉教授・(医)友紘会 彩都友紘会病院長)

Q. 「放射線は怖くない」と話されておりましたが、全国的に取り組まれている年間1ミリシーベルト以下にするような除染作業は必要ないのでしょうか。
A. まったく必要ありません。

Q. 広島・長崎の人で数十年後に固形腫瘍が増加したというが、その程度は非被ばく集団と比べて違いがあるか。
A. その違いが100ミリシーベルトで1.05倍、1000ミリシーベルトで1.5倍です。ただし比べているのは、半径3Km以内にいて5ミリシーベルト以下の被ばくの集団です。3Km以遠の非被ばく集団と比べると、100ミリシーベルトでも有意の増加なしです。

Q. 内部被ばくによる影響について、具体的な数値として解っている事はどれくらいの事なのか。
A. 質問の意味があいまいですが、福島の事故後、人体への影響が数値としてでているものはありません。京都大学の小出氏は、2012年6月の乳幼児の尿の分析で最高17.5ベクレル/Kgのセシウムが検出されたと書いていますが、1960年代の原水爆実験当時、食品や粉ミルクに数十ベクレル/Kgのセシウムが含まれていました。日本中の人が摂取していますが、影響はありませんでした。

Q. 「放射線ホルミシス」は専門家の間でどれくらい支持されているのか。
A. 調べたことはありません。どんな専門家かにもよると思いますが、医療関係者への講演では多くの人が賛同してくれます。

Q. すでに核実験で広がっている大気圏の放射線量について、癌リスクをどう評価するのか。
A. 核実験後のフォールアウトのピークは1964年で、成人で約800ベクレルのセシウム137が体内にあったことがわかっていますが、がんリスクは増えていません。しきい値以下と考えます。

Q. チェルノブイリの子供の癌死亡数は少なく見えますが、6845人が癌になった事はどう考えるのか。
A. ヨウ素131の放出量が福島の10倍で、規制のないまま牛乳を飲んだこと、内陸部で慢性のヨウ素不足だったことが原因です。子供だけが甲状腺がんになったのは、ヨウ素131入りの牛乳を子供のほうが多く飲んだこと、0~5歳児では甲状腺への取り込みが多くなること、1000ミリシーベルトを超えると子供のリスクが高くなること等のためと考えます。

Q. 放影研の14報で「放射線による死亡リスクにはしきい値はない」という論文が出ているようですが、矛盾するのではありませんか。
A. 放影研の14報「放射線による死亡リスクにはしきい値はない」は正しい表現とは思いません。放医研も、放射線影響学会も、医学放射線学会も、そうは言っていません。

Q. 塗料にラジウムを使っている時計が家にあるのですが、この時計はどのくらい放射線量があるのか。
A. 問題になる量ではありません。少なくとも年1ミリシーベルトを超えていないことは確かです。

Q. 町の線量計測定所で計測してもらった(測定線種はセシウム)、精米(8ベクレル)(100g当たり)を1日300g、365日食べた場合、1年間当たり何シーベルトを被ばくした事になるのでしょうか。
A. Kgあたり80ベクレルを109.5Kg食べたことになりますから、概算ですが、0.136ミリシーベルト/年になります。問題のない線量です。

Q. 先生はICRPにおられたにも関わらず、ICRPプロパーの説明をなさらず、ホルミシス、閾値説を重視されています。なぜICRPプロパーの説明をなさらないのですか。
A. ICRPの委員の意見がすべて一致しているわけではありません。私は1997~2000年に委員でしたが、その後、多くの情報、知識を得て、現在の考えに至っています。

Q. 今回の福島の自己で特に母親層が放射線について根拠の無い過度な拒否反応を示しているように感じられるが、こうした方々への対応はいかにあるべきか。
A. 様々な方法で正しい知識に導くしかないのではないでしょうか。

Q. 外部被ばくより内部被ばくの方が安全という理由をもう少し解りやすく教えて下さい。
A. わかりやすく言うのは難しいです。一応書きます。内部被ばくによる被ばく線量の評価は、体内に放射性物質を摂取した時点で、半減期、排泄、体内分布を考慮したうえで、その後50年間にわたって受けるはずの線量が実効線量として算定される。これは預託実効線量という考え方です。つまり、50年間分の被ばくに相当する線量を摂取の時点で被ばくしたものとします。しかし、50年間、その影響は修復され続ける。預託線量には修復分は計算されていないので、修復分を差し引くと実際の影響はずっと少なくなる。たとえば、体内に入ったセシウム137の内部被ばくが50万ベクレルとすると、その実効線量は6.5ミリシーベルトと計算されるが、外部被ばくであるCT被ばくの6.5ミリシーベルトより影響はずっと少ないことになります。

Q. チェルノブイリの事故の影響について大人と子供の影響が異なるという結果でしたが、その場合のしきい値は何に(体重、摂取量等?)依存したものになるのでしょうか。
A. ヨウ素131入りの牛乳を子供のほうが多く飲んだこと、0~5歳児では甲状腺への取り込みが多くなること、1000ミリシーベルトを超えると子供のリスクが高くなること等に依存していると考えます。

Q. 低線量かつ長期被ばくの影響はないとのことですが、それならば今後調査していく医療の専門機関などは必要ないのではないでしょうか。
A. いくつかの資料を示して、長期低線量被ばくによってがんが増える証拠はない、むしろいい影響があるかもしれないと言いました。しかし、そう思っていない人もいますから、今後の調査によって、より多くのデータが蓄積されるのは、必要なことと思います。

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木下冨雄(京都大学名誉教授・(財)国際高等研究所フェロー)

Q. 「マスコミこそ最強のコミュニケーターになるべき」と言うのがマスコミの最大の任務・役割と考えるが、これをいかに具体的に実現していくのか?その方策についてお考えがあればお聞かせ下さい。
A. 「マスコミこそ最強のリスクコミュニケーターになるべき」という上記のご質問ですが、これは実は正確な表現ではなく、私がシンポで申し上げたのは、「マスコミは最強のリスクコミュニケーターになりうる」ということです。
というのは、厳密にいえばマスコミは事件や災害(今回でいえば放射線被ばく)の当事者ではなく、それに関する情報を取材して国民に伝える「媒介者」に過ぎないからです。当然ながら彼らは事件や災害の専門家ではないので、放射線に関する詳しい情報や知識を持っていません。したがって彼らは、もともと事件や災害の「発信者」になり得ないのです。
それにも関わらず最強のリスクコミュニケーターになりうると申し上げたのは、本来の発信者である企業、行政の方たちは、事件や災害の専門知識や情報を沢山持っているけれども、それを国民に広く伝えるコミュニケーション能力を持っていないからです。内容が分かりにくいし、話し方も下手だし、スピードも遅いのです。とすれば企業や行政は伝えるべき内容は自分で作成して、その伝達部分をコミュニケーションのプロであるマスコミに託するのが効率的でしょう。これが「マスコミは最強のリスクコミュニケーターになりうる」と申し上げた意味です。
ところが問題もあります。なぜならマスコミは専門家でないから、企業や行政から伝えられた元の情報を誤解したりミスリードする可能性があるからです。ことに記事や番組の解説者として誰を選ぶかが大きく関係します。テレビや新聞の肩書きには放射線の専門家と書いてあるけれども、本当のプロから見ればとても専門といえない人が誤った解説をしているケースは沢山あります。そしてマスコミは、それを区別する能力を持ち合わせていません。
それにマスコミは事件や災害の科学的な事実関係よりも、その「事件性」が好きという彼ら自身が認める体質があります。ことに取材するのが科学部ではなく社会部の記者であるときはそうです。さらに彼らはいわゆる権力に対して批判的であることを信条としていますから、そのバイアスも無意識のうちに混入します。もっともこれには、マスコミのチェック機能としてよい面もあるのですが、行き過ぎてヤラセや意図的なフレームアップになる例も少なくありません。
ではどうすればよいか。それにはまず情報を伝える企業や行政の方たちが、日ごろから正しい情報を可能な限りフェアに国民に伝えるという強い意識を持つ必要があります。だがそれだけではなく、コミュニケーションのスキルを磨かねばなりません。たとえば素人のマスコミに理解して貰えるような平易な言葉や論理を工夫するとか、発表要旨をハンドアウトに纏めるとか、類似した情報を異なる組織でリリースするときは事前に摺り合わせて誤解を防ぐといったことです。
その点からいえば、企業や行政の方たちのスキルは残念ながら非常に低いと言わざるを得ません。企業や行政の方は、マスコミは自分たちが話したことを正確に伝えないと非難することが多いのですが、その責任の半分は自分の方にもあるのです。
もう一つ付け加えたいのは、企業や行政が、マスコミを非難したり喧嘩をするのではなく、彼らと共同して勉強会をする必要性です。その実例はいくつかあり、国立がんセンターの催しは成功例の1つでしょう。彼らはマスコミ各社に呼びかけて勉強会を組織し、月1回の割合でがん問題についての議論をしています。そこではがん研側から最新の学術情報を提供するだけではなく、1月の間に書かれたがんに関する記事を取り上げてその正確さを評価したり、誤ったマスコミ記事の指摘をします。これは記者にとっても非常に勉強になるようです。
そこでもっとも大切と思うのは、がん研がマスコミを教育したり指導するといった、上からの目線でこの会を主催しているのではないことです。がん研は「自分たちは科学的に正しい知識を持って貰いたい。それを広く国民に伝えたい。その思いは私たちだけではなくマスコミの方も同様ではないですか」という言い方をするのです。マスコミもその点に共鳴して参加している訳です。このような勉強会を、放射線関係の学会や組織で試みられると良いのではありませんか。

Q. 放射線問題において認められるリスク認知のバイアスは、日本人心理に特に顕著なものでしょうか。
A. 放射線問題において認められるリスク認知のバイアスは世界的なもので、日本人だけの特殊なものではありません。リスクにはそれを数値として測定できる「客観的リスク」(たとえばBqやSvで表現される値)と、そのリスクをどのように認知するかという「主観的リスク」があります。この両者は食い違うことが多く、ある時は客観的に安全なのに主観的に危険と感じるとか、その逆に、客観的には危険なのに主観的には安全と誤解することもあります。この両者の食い違いのことを「認知バイアス」といいます。
この認知バイアスには法則性があり、一般に、リスクの対象が目に見えないもの、未知のもの、自分でコントロールできないもの、受動的なもの、効果が晩発的であるもの、子供に影響が出やすいものなどに対しては、客観的に安全であっても主観的には危険と判断される傾向があります。この傾向は世界共通です。そしてこのようなリスク特性を放射線に当て嵌めると、全てピッタリということがお分かりでしょう。放射線に対して人びとが必要以上に怖がるのは、このような心理特性が人間の中に存在するからなのです。これは人のこころにプログラムされた特性であって良い悪いの問題ではありません。
二番目に重要な問題は、過去の放射線被ばくに関するトラウマです。日本では広島・長崎の原爆、欧米ではチェルノブイリの原発という違いはありますが、いずれも市民や社会に大きな衝撃を与えた事件がありました。市民はこの衝撃をトラウマとして抱え、その悲劇をなかなか忘れることができません。
三番目に重要なのは、市民が放射線の身体影響に関して科学的な知識を持っていないことです。今回の事故で急速に知識は増えましたが、それまでの市民はほとんど知識を持っていませんでした。事実、過去の調査データを見ても、市民は身体検査におけるX線撮影の線量を知っているぐらいで、バックグラウンドの線量や原発サイトの規制線量を知っているものはせいぜい1割に過ぎなかったのです。そして知らないものに不安を感じるのは人間として当然でしょう。このように放射線に関して不安を感じる背後には、いくつかの心理的・社会的要因が重なっているのです。
なお以上に述べた放射線に対する不安とは別に、リスクという概念に関しては、日本と欧米の間にかなり大きい違いがあります。その点についても解説したいのですが今回は省略します。

Q. 公正な第3者組織(NRCのようなもの)ができそうだという事ですが、具体的な情報を教えて下さい。NRCとはどのような組織か。NRCにコミュニケーター的な役割を果たす機能があるのですか。
A. 似た質問が3つ寄せられましたので纏めてお答えします。NRCとはアメリカ政府の独立機関で、正式にはNuclear Regulatory Committee(原子力規制委員会)といいます。その主要業務は文字通り原子力の「規制」に関することで、具体的には原子力発電所の設置・運転の許認可、その安全とセキュリティの審査と監督、放射性物質の安全とセキュリティの確保、使用済み核燃料の貯蔵・セキュリティ・再処理・廃棄処分の監督業務などです。また核テロに対する防衛対策も業務の1つです。
これに対して原子力の「推進」に関する業務は、Department of Energy(エネルギー省)が担当します。つまりアメリカでは、原子力の推進側と規制側を分離して、別個の独立機関としていると思って下さい。
この組織を真似て、日本でも最近原子力規制委員会が発足したのはご承知の通りです。これまでは原子力安全委員会が内閣府に、原子力安全・保安院が経産省にありましたが、両者は合体して上記の新しい組織になりました。原子力安全・保安院は規制業務が中心なのに、促進業務を担当する経産省の中にあるのは矛盾するという批判が前からありましたが、今回の事故を教訓にやっとあるべき姿に改組されたといえましょう。ただ形は整っても、原子力規制委員会が電力会社に甘すぎるとか、厳しすぎるという批判はアメリカでも絶えません。しかし私から見ると、これまでに日本のように、規制業務を担当する保安院が、推進業務を担当する経産省の中に存在するという矛盾はないわけで、その業務は今後かなり合理的に進められるのではないかという印象を持ちます。
ところでNRCがコミュニケーション業務をしているかということですが、答えは条件付きでイエスです。彼らは市民を対象としたワークショップやシンポ、説明会などを定期的に開催していますし、それ以外の広報活動にも熱心です。詳しくはNRCのホーム頁をご覧下さい。ただ彼らの業務は市民への啓蒙活動や情報提供などが中心ではないので、限界があることも事実です。
したがって、市民に対して放射線情報の発信を専門に行うには、NRCのような組織とは別に、独立した広報機関を設ける必要があります。原子力や放射線関係の分野ではまだそのような組織はありませんが、電磁界の世界では専門組織が日本でも設立されています。それは「電磁界情報センター」という組織で、ここでは電磁界の身体影響に関する世界中の学術研究の収集とデーターベース化に始まって、市民とのワークショップ・シンポの開催、測定器具の貸し出し、市民からの相談に対する対応や援助、マスコミの誤った報道に対する訂正申し入れなどを行っています。このような第三者機関を、原子力プロパーや放射線関係の分野においても立ち上げれば、市民は相談先ができて大歓迎するのではないかと思います。

Q. 妊婦さんが不安になって産婦人科に行くのは見当違いという事でしたが、放射線科の先生が身近にはいないのではないでしょうか。
A. 放射線被ばくに不安を持った妊婦さんが産婦人科へ相談に行くのは、医学的見地から見た場合、必ずしも適切でないことはシンポで申し上げた通りです。やはり放射線の専門家を訪ねるべきでしょう。
でも指摘されたように、地方によっては放射線専門医や技師が近くにおられないことも確かにあります。その場合は一番近くの総合病院を訪ねられるか、電話を掛けられるかして、彼らと話されるのはいかがですか。また多くの放射線関連学会や組織が電話相談をサービスしていますから、そちらを利用される可能性もあるでしょう。ともあれ、このようなアクセス情報を、地域の保健所や医師会が市民に広報することが必要ですね。

Q. 「放射線は危険」と言う専門家が市民から称えられ、「放射線は安心安全」と言う専門家は御用学者と揶揄されているが、今回の事故で大きな影響は出ないと思う。 どのように考えるか。
A. 人間は外部から入ってくる情報の取捨選択に関して、次のような方策を取りがちです。それは情報の客観的な正しさに基づくよりも、自分の持っている価値観や態度に適合する情報を採用するというメカニズムです。この傾向は、対象に対して十分な知識を持ってないときにより顕著に表れます。そしてこのような情報処理のことを、心理学では「選択的知覚」と呼びます。つまり人間は、自分の持っている価値観や態度に合致する情報を「正しい」情報として受け入れ、合致しない情報は「誤った」情報として拒否する傾向があるのです。これは人間の「自我防衛」のメカニズムの1つとして考えられています。
今回の事態でもこの傾向が見られるわけで、放射線に対して直感的に怖い、危険と予め思っておられる方は、十分な知識がないままに、自分の考え方を支持する情報を正しい情報として受け入れたいのです。それがご質問のような反応として、表に現れるとお考え下さい。これは科学的に言えば危険で誤った情報処理ですが、心情的に考えれば理解できないことはありません。そこが難しいのです。ではどうするか。
私の基本的な考えは、やはり原点に戻って、科学的エビデンスに基づく正しい情報を、平易な言葉で繰り返し提供するより仕方がないということです。ただそれを誰が与えるかが問題で、信用の失われた組織から伝えられても効果は上がらないでしょう。そこで登場するのが、(3)で述べた放射線関係の専門学会や組織、それに第三者組織の登場です。この放射線影響学会やいのちの科学フォーラムも、その一つではないでしょうか。

Q. リスク回避のために命を失うごとき愚行を冒してしまった時、この事をどの様にとらえるべきか。
A. 申し訳ございませんが、ご指摘なった問題が、具体的に何を指しておられるのかが分かりません。恐らく複数のリスクが存在する事態で、自分なりの「リスク・トレードオフ」をした結果、誤ってより危険なリスクを選んでしまったことではないかと拝察しますがその解釈でよろしいでしょうか。もし間違いであればお許し下さい。
ところでこのようなリスク・トレードオフは、いろいろな場面で発生します。放射線被ばくリスクを避けるためにX線診断を拒否した結果、癌の発見が遅れて命を失ったというのはその典型でしょう。麻酔薬のリスクを怖れて手術を拒否する、薬の副作用リスクを怖れて投薬を拒否するというのも同じことです。
ただここで例に挙げた場面は、「対抗リスク」の間にかなりの価値差があるのでまだ解決しやすいのですが、対抗リスクが拮抗していて判断に迷うケースも少なくありません。今回の福島の例では、規制値を僅かに超える放射線に汚染された地域から、立ち退きを強制された場合などが典型でしょう。というのはこの場合、放射線被ばくという生物的リスクを避けるのか、長年住み慣れた地域から立ち退かされることによってこれまでの人間関係を失い、かかりつけの医者の介護を失い、職業を失いという社会的・心理的リスクを避けるのかという、難しい選択があるからです。
行政はこのような場合一律に立ち退きを勧めがちですが、市民は地域の連帯という拠り所を失うわけで、心の健康というリスクはこちらの方がかえって高いかも知れません。事実そのようなデータも報告されています。私自身もすぐに答えを出せません。もし放射線被ばくが規制値以上であっってもそれが余り高くなければ、そして対象者が子供でなければ、立ち退きをするか否かは個人の選択に委ねるという行政手法もあると思うのですがいかがでしょう。

Q. 市民に分かりやすく伝える必要性を考えて下さって大変有り難いのですが、先生は放射線についての影響の有無等をどのようにお考えなのですか。
A. 私は放射線の専門家ではないので、このご質問に対して数値を元にしたお答えは避けたいと思います。その代わり研究者という立場から、このような問題に対する私自身のスタンスを申し上げるということでお許し下さい。それは「リスクは正しく怖れる」という考え方です。
というのは、放射線といってもピンからキリまであるわけで、それによって怖れる、怖れないは全く違うと思うからです。たとえば原爆のように極端に高い線量を、しかも一度に浴びせられる場合は極めて危険です。だからこそ原爆が大量殺戮の武器として使われるわけでしょう。したがって原爆を怖れるのは正しい怖れ方と思います。しかしバックグラウンドのように、大地から弱い線量を少しずつ浴びている場合は問題がない訳です。これを怖れるのは正しい怖れ方とは思いません。
この考え方の背後には、自然に対する私の認識の仕方があります。それは自然界の物体を形成している化学物質はさまざまですが、そのほとんどは多すぎては危険、少なすぎても危険という微妙なバランスの上に成立しているということです。たとえば人体の中にもさまざまな化学物質があります。食塩、鉄、亜鉛、カリウム、アルミ、モルヒネなどなど。そしてこれらの物質は多すぎると健康を害しますし、少なすぎても健康を害します。このことは健康診断の血液検査の結果を見れば直ちに理解されるでしょう。それにおよそ無害と思われる水だって、大量に飲めば水中毒になります。
同じことは放射性セシウム、ヨウ素についても言えるわけで、体内には誰でも数千ベクレルの放射性物質が常時含まれています。食物の中にもかならず含まれています。したがってその量が多すぎると健康を害しますが、少なすぎても健康を害するのです。放射性物質を体内からゼロにと叫ぶ人がいますが、これは病気になれというのと同じです。そもそも人間はビッグバンに端を発した宇宙の中で生まれ、放射線の海の中で進化してきた訳ですから。結果として人間も自然も、「ほどほど」の放射性物質が含まれていて健康が保たれているのです。まさに貝原益軒の世界といえましょうか。
さてここまでの話しは多くの方に同意して頂けると思うのですが、問題にされるのは多分人工的な放射線でしょう。典型なのが医療被ばくや、産業界で使われる放射線被ばく、今回のような事故による被ばくです。これは確かに余分な被ばくですから、それを防ぐのは当然のことです。しかし規制値を1mSvでも超えたら危険というのは過剰反応です。規制値というのは、それ以上の値なら危険という意味ではなく、およその目途を示す値でしかありませんから。皆さんが受けられる人間ドックで、たとえば血液検査で測られたLDLコレストロールの標準値が70~139mg/dLと書いてあったりしますがそれと同じことです。この幅から1mgでも超えれば病気だというわけではないのです。しかしながら標準値からの逸脱が過大であったり、その傾向が永続的であったりするとこれは問題でしょう。
放射線も同じことです。一時的に、また局所的に被ばくが多少高くても、それほど心配することはありません。問題は線量がどれほど標準値を超えているか、それは継続的か、空間的にどの場所も高いのかということです。その場合には当然注意を払う必要があります。そしてもしそのような傾向が認められたら、ご自身で、また公的な機関に依頼して対策を立てられる必要があると思います。
申し上げたいことはまだ沢山ありますが、取り敢えずここまでに留めておきます。

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室山 哲也(NHK解説委員)

Q. 「マスコミの連携について」いままでどのうような連携があったのか。また、どのような点に問題があったのか、具体的に今回の大震災の例があればおしえて頂きたい。
A. 各社連携しての取材はあまり記憶にありませんが、テレビ、ラジオ、インターネットを融合した放送をしてきたと思います。

Q. ポピュリズムに偏った報道が多すぎると感ずるが、これに対してどのように考えるか。
A. 視聴率や新聞の購買数競争がそのもとにあるのかもしれません。公器の自覚をもっと持つ仕組みが必要だと思います。

Q. 専門ジャーナリストの育成はレベルの限界があるのではないか。むしろ専門家をジャーナリストとして養成した方が正確な情報が提供されるのではないか。
A. その考えは正しいと思います。(それも必要)

Q. 報道というのは誰のための(何のための)ものと考えていますか。
A. 市民のためのものだと思います。

Q. チェルノブイリ原発事故、広島長崎での原爆投下のデータが報道されないのはなぜか。
A. いくつかの番組で報道したと思いますが。

Q. 「放射能」という用語の意味を教えて下さい。
A. 会場で議論になった通りです。

Q. 一部の新聞・ラジオでは(例えば電力会社に対するバッシングなど)極めてイデオロギー的な報道(偏向した報道)がなされているように感じるが、確度の高い信頼できる情報というのはいかにして入手すべきか。
A. 多面的取材をすることに尽きると思います。

Q. メディアリテラシーを身につける方法があれば(本など)教えて下さい。
A. 特にありませんが市民向けでは池上さんが書いていたような記憶がありますが。

Q. マスコミは放射線の専門家として物理学の専門家に聞くが、放射線生物学の専門家に聞かないのはなぜか。何を基準に専門家を選ぶのか。
A. そんなことはないと思います。多面的に取材しているのではないでしょうか。

Q. 原発の報道で、NHKに対して信頼出来なくなりました。信頼回復の方策はあるのでしょうか。
A. 多面的取材と報道を根気強く続けていくことだと思います。

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中村 典((公財)放射線影響研究所主席研究員)

Q. 「100ミリシーベルト」以下の被ばくにより少しリスクが増える可能性があると仰られていましたが、楽観視しすぎている数値ではないのか。
A. 私が述べたのは100ミリシーベルトではなくて、避難対象となった20ミリシーベルトの影響についてです。20ミリシーベルトといえば、自然放射線のほぼ10年分ですので、そんなものは何も影響なんかないだろうという気もしないではありません。が、原爆被爆者の疫学データを、直線閾値なし(LNT)モデルで計算すれば、被曝していない場合と比較して、30歳被曝し70歳に到達した場合、相対リスクが1.01倍になる可能性があります。この程度の増加であれば、禁煙や生活習慣の改善などで軽減もしくは、喫煙者が禁煙したら帳消しにできる可能性があると思います。実際に長野県の例があります。しかしもしこれが100ミリシーベルトであれば、1.05倍という計算になるので、生活習慣の改善では打ち消せないかも分かりません。原爆のような短時間の被曝ではなく、長期にわたる慢性被曝ですので、影響はLNTモデルで計算した値よりも少ない可能性はありますが、どれだけ減弱するかは解明されていません(こちらをご参照下さい)。

Q. 「LNT仮説」を支持しますか。「放射線ホルミシス」を支持していない根拠はどういったものがあるのか。
A. LNT仮説がもっとも妥当で整合性があると思っています。ホルメーシスの考えには多くの瑕疵があります(こちらを参照下さい)。例えば、
①活性酸素でDNAには常に傷ができているのは事実としても、だから少々の放射線の傷には平気だという説には同意できません。DNAは2本のらせん状の鎖から成り立っていますが、活性酸素(およびほとんどの化学発がん剤など)は自由に動く分子ですから、もっぱら1本の鎖にしか傷を作りません。その場合には細胞は、傷のない方のDNAを手本にして傷ついた方の鎖を正しく元通りに直せます。効率はほぼ100%と言われています。しかし放射線(X線、ガンマ線)が照射された場合には、電子が放出され、その電子が細胞内を走る(飛跡といいます)際に、エネルギーを周囲に撒き散らします。こうして電離(ラジカル生成)が起こりますが、特に飛跡の停止寸前では高い密度で電離を生じます。ということは、DNAの2本の鎖が同じ場所で傷つきやすいということです。これが放射線と化学物質との大きな違いです。更には、ラジカルの密度が高いのでDNA切断だけでなく同時に塩基などにも傷をつける可能性が高くなり、複合傷害となって細胞にとって正しく直すのは大変難しくなります(誤りのある修復は可能)。
②ジェット旅客機のパイロットは一般人よりも多く宇宙線をあびるのに、死亡率は高くないといわれますが、パイロットを一般人と比較して放射線の影響を論じるのは誤りです。職業従事者は、世間一般よりも健康であることが多いのは疫学の分野ではよく知られていること(Healthy Worker Effectという)です。
③閾値説あるいはホルメーシス説の根底にある考えのひとつに、線量が多いと細胞はDNAに生じた傷を正しく直せないが、線量が少ない場合には正しく直せるので影響がないというものがありますが、科学的根拠は確定していません。試験管内で少量の放射線を反復照射して突然変異を調べた報告によれば、10~50mSvの間でもほぼ直線的な頻度の増加が見られており、その線量反応の勾配は、高線量域で得られた勾配とほぼ同じであった(線量の違いによって正しいDNA修復能力に違いを生じるという事実は観察されなかった)という研究結果があります(Grosovsky and Little. PNAS 1985 82: :2092)。
④自然放射線レベルの高い地域の住民に影響が見られないので、低線量ではがんリスクはないという議論もありますが、調査人数が十分大きくはないし観察期間も短い(10年の追跡で累積線量が500mSv以上の人は600人くらい)ので、影響が検出されなくても不思議ではないと思います(強い影響は見られないというだけのことです)。影響が検出されないことは、影響がないこととは違います。
⑤むかし、結核の治療の際に胸部レントゲン透視(フルオロスコピー)が頻繁に行なわれた時代がありました。1回の被曝は10ミリシーベルト程度なので影響を検出することはできませんが、毎月数回の検査を何年にもわたって行うと乳がんのリスク増加を生じたという報告があります(例えばBoice JD Jr, Preston D, Davis FG, et al.: Radiat Res 1991 125: :214)。つまり10ミリシーベルトの被曝も全く害がないとは言えないことになります。

Q. 放射線レベルには地域差があるというお話でしたが、人間が放射線耐性を獲得する可能性はありますか。
A. 原子炉の冷却水の中で生活している細菌がいてすごく放射線に抵抗性です。しかし私らのまわりにいる普通の菌らしいです。つまり、強い放射線がある環境では環境を独占できても、そうでない環境では他の細菌よりも特に強いわけではないということです。そう考えると、人が放射線耐性を獲得しても、強い放射線がないと他者との関係において優位性は発揮できないということになりますね。DNAに生じた傷を直すための新しい酵素獲得のために支払う代価と、そのような性質をもっていることで社会においてどれだけ優位になれるか、のバランスでしょう。培養細胞の世界であれば、放射線耐性の獲得は実例があります。

Q. 放影研の14報で「放射線による死亡リスクにはしきい値はない」という論文が出ているようですが、矛盾するのではありませんか。
A. 私は個人的には閾値のないLNTの考えが妥当と思っているので、矛盾はしていないつもりです。第14報では、「閾値がないというモデルに合う」という説明はしていますが、しきい値の有無を結論しているわけではありません。今後がんの例数が増えると、統計学的に有意なリスク増加を示す最低線量が今よりも小さくなる可能性はありますが、閾値の有無を証明することは無理ではないかと思います。

Q. がん因子を持っている人だけが放射線をあびる事によって、がんのリスクが高まるのか。
A. 私は、誰でもがん因子を持っていると思っていますので、回答は「いいえ」です。その理由は、放射線はがんを誘発するのではなくて、発症を早めるのだと思っているからです。つまり、放射線は自然の作用と共同して初めてがんの発症に寄与できるという訳です。こう考えるようになった理由は、自然に生じないがんを放射線だけで作ることはできないこと、マウスには多くの系統がありますがどの系統を使うかで放射線で増えるがんは決まっていること、などです。現代の知識では、がんが発症するためには細胞に多くの突然変異が蓄積する必要があります。恐らく放射線はそのステップのどれかひとつを前倒しするのだろうと思います。相対リスクは、同じ年齢の被曝していない人と比較して、頻度がどうなっているかを教えるものですが、頻度が増えているのか、前倒しになっているのか(がんの頻度は年齢の5乗で増えるので、前倒しが起こると年齢の割には頻度が高くなる)は教えてくれません。

Q. 検出できなかったという事を科学者ははっきり言うべきではないか。
A. どのような影響であっても、作用量が少なくなれば曝露のない対照群との差が統計学的に有意でなくなるのは当然のことです。しかしそのことは影響がないことと同じではありません。その理由は、影響の度合いが小さい場合、実験の規模が小さいと容易に「影響は検出されなかった」という結論に至るからです。逆の言い方をするなら、規模を10倍、100倍にすれば影響を検出できたかも知れないということです。統計学的解析は、「AとBの間に有意な(偶然ではなく意味のある)違いがあると言えるか」という問いに対する回答を与えようとするものですが、答えは通常は95%の確かさで(5%の確率で間違った結論になることもあるという意味です)、「違いがあると言える」、あるいは「違いがあるとは言えない」のどちらかを導くものです。「違いがない」という結論ではありません。
具体的な例をひとつ。むかし、結核の治療の際に胸部レントゲン透視(フルオロスコピー)が頻繁に行なわれた時代がありました。1回の被曝は10ミリシーベルト程度ですから、それ単独の影響は検出できません。しかしフルオロスコピー検査を毎月数回、何年にもわたって行うと乳がんのリスク増加を生じたという報告があります。つまり10ミリシーベルト一回の被曝影響は検出できなくても、繰り返して被曝した場合には検出できるようになります。

Q. しきい値の考え方を教えて下さい。20ミリシーベルトで心配無しとの事ですが、外部被ばくし続けていても大丈夫ですか。
A. しきい値とは、「その線量以下であれば影響がない」と考えられる線量のことです。20ミリシーベルトといえばほぼ10年分の自然放射線の量ですから、実感としては、影響はないような気がします。しかし、原爆被爆者のデータから計算で求めると、1.01倍という数字が得られます。体験を通じて認知されるリスクのレベルより遥かに低いものですが、10ミリシーベルトの被曝(胸部X線透視)でも繰り返して被曝すると乳がんリスクが高くなるという論文はあります(Boice JD Jr, Rosenstein M, Trout ED. Radiat Res. 1978, 73:373-90.)ので、この場合10ミリシーベルトは「しきい値以下」ではないことになります(前項を参照して下さい)。放射線の影響は細胞に記憶されるので、線量は蓄積すると考えるべきです。しかし将来の被曝も含めて累積線量が20ミリシーベルト以下なのであれば、今後の被曝が少しあっても影響は少ない(生活習慣の改善などを通じて減らすことができるレベル)と思います。

Q. 福島県相馬市に実家があります。国で決められた警戒区域外は安全という理解で良いのでしょうか。
A. インターネットで調べてみましたら、避難指示解除準備区域は、年間の積算線量が20ミリシーベルト以下となる地域で、復旧などの理由で立ち入りしてもよいが、宿泊などはまだできないという地域とありました。警戒区域外ということは、居住してよいということですから、年間の積算線量はもっと低いのだと思います。ですから、安全という理解でよろしいと思います。
現在のご実家での線量率がいくらなのか分かりませんが、今後の予測をご紹介します。現在測定されている放射線(ガンマ線)のほとんどはセシウム134と137によるもので、セシウム134は半減期2年、セシウム137は半減期30年で減衰していきます。従って、セシウム134は2年ごとに半分になっていきますがセシウム137はほとんど減りません。その結果、放射線の強度は、3年後には半分くらい、10年後には1/4くらいに減ると考えられています。
学習院大学理学部 田崎晴明氏のHPより)

Q. 測定機で簡単に測れないアルファ線の被ばく量をどうやって見積もるのでしょうか。
A. 私はその方面の専門家ではありませんが、アルファ線は体内摂取の場合にだけ問題になるのですから、そのアルファ粒子のもっていたエネルギーの全てが被曝に関わると考えていいのではないでしょうか。

Q. 現在、放射線の生物・人体への影響に関する情報もかなり整理されてきているように見られます。にも関わらず、未だに「解らない」という事を強調する報道が多いように思われます。このような状況についてどのように考えられますか。
A. いくら研究が進んでも分からないことはなくなりませんから、ある程度は仕方がないことではないかと思います(不勉強なため「分からない」というのでなければ)。例えば、原爆被爆者の場合、リスクの増加が明らかな線量(200ミリシーベルトとしましょうか)と線量ゼロとの間は、リスク増加は統計学的に有意ではありません。しかしこの間が何らかの関数でつながっていることは確かです。どういう曲線(あるいは直線)で結ぶべきかについては「分かっていない」としか説明のしようがありません。
報道関係者の中にはよく勉強しておられる方もありますが、残念ながら全てではありません。また、特に週刊誌などでは報道内容の真偽よりもいかに売るかの方に熱意を感じたことが多々ありました。報道が、政府の発言を否定することが正義であるかのように錯覚しているように思えるところもあります。物事の流れで記事を書くのではなく、真実の追究こそが報道の命であることを自覚した記者がもっと増えてほしいと思います。現在のこうした報道環境の中では、科学者は記事や番組の中であらかじめ決められた流れの中で都合のよい部分だけを切り取られる消耗品です。

Q. 1.01倍の発がん率アップというのは、100人いたら1人が追加的にがんを発症するという意味ですか。
A. いいえ、100人ががんで亡くなるところが101人になるということです。

Q. 福島原発事故被災者の被ばく線量毎の健康リスクの推定に瞬間被ばくである原爆生存者の線量別健康影響を当てはめて間違いでない根拠は何ですか。
A. これは放射線被曝の線量率(単位時間あたりの放射線量のこと)の影響をどう評価するかという問題です。原爆は1秒以下の極短時間の被曝であったので、福島とは大違いだという説明をする人もいますが、それは間違いです。原爆が爆発した後で生じた火の玉からも放射線は放出されています(30秒から1分)。従って、動物の実験でよく使われる毎分1Gy前後の照射条件と極端に違うとは思われません。
一般的には、短時間の被曝(急性被曝:大雑把に区分するなら、数分以内か)の方が、長期にわたる被曝(慢性被曝:数ヶ月から数年以上か)よりも影響が大きいのは事実です。ただこうした情報のほとんどは動物実験に由来しています。当然ながら多くの量の放射線を照射して調べた結果です。他方、少量の放射線の影響については、影響の測定には非常に多数のマウスが必要になるので、ほとんど報告がありません。人間の慢性被曝に関する疫学調査もありますが、個人の長年にわたる累積被曝線量の推定には多くの誤差を伴っているので、得られたリスク値をどこまで額面通りに受け取っていいか議論があります。ということで、低線量放射線量被曝の線量率の影響につては、測定結果がないので哲学論争に近いことにならざるを得ません。動物実験では、急性被曝の場合の発がん線量反応は2次関数的(y = aD+bD^2)、慢性被曝では直線的(y = aD)に見えることがあり、そのような場合は低線量の影響は線量率の影響をほとんど受けないことになります。ですから、原爆被爆者のデータから20ミリシーベルトの被曝による影響を計算しても、慢性被曝の影響の推定としてそう大きな間違いにはならないと思います。
他方、職業上の放射線に被曝する人の被曝限度を考えるうえでは、慢性被曝も急性被曝と同じように考える方が安全側に立った解釈になります。かつては、同じ影響を生じるために、慢性被曝では急性被曝の何倍もの放射線が必要という考えで防護基準が考えられていましたが、この倍率(線量率係数)は、2倍から次第に下がってきていて、1.5倍あるいは1倍しようという方向に動いています(将来の被曝管理が目的なので、係数が1の場合が最も安全。つまり慢性被曝も急性被曝と同様に扱いましょうという理念ですね)。

Q. 放射線影響研究所で報告された「原爆被爆者の死亡率に関する研究第14報」についてLNT仮説が証明されたのでしょうか。これは医療被ばくや環境被ばくにも当てはまるのでしょうか。
A. いいえ、仮説が証明されたわけではありません。原爆被爆者の疫学調査ですが、放射線の量が少ないと、統計学的な誤差が大きくなるので、放射線の影響についての明確な答えは得られにくくなります。第14報で言っているのは、200mSvよりも高い線量の観察点を用いて直線を引いたら、横軸との交点はかなりゼロに近いところに来たということです。しかしこれは信頼区間という幅を伴っている推定値です。
原爆による被曝は全身ですが、医療の場合は多くは体の一部の被曝です。従って、被曝していない部分(と言っても放射線はそれが当たったところで散乱されるので、まったく被曝ゼロということにはなりませんが)にはリスクは生じないということです。環境被曝は全身ですから原爆被爆に近いです。急性被曝か慢性被爆かという違いだけです。その違いをどう考えるかは前項を参照して下さい。

Q. 中村仁信氏のホルミシスの話に関する反例があればお願いします。
A. ①活性酸素によってDNAに常に傷ができているのは事実としても、だからと言って少々の放射線の傷には平気だという論理にはなりません。DNAは2本のらせん状の鎖から成り立っていますが、活性酸素(およびほとんどの化学発がん剤など)は自由に動く分子ですから、もっぱら1本の鎖にしか傷を作りません。その場合には細胞は、傷のない方のDNAを手本にして傷ついた方の鎖を正しく直せます。効率はほぼ100%と言われています。しかし放射線(X線、ガンマ線)が照射された場合には、電子が放出され、その電子が細胞内を走る(飛跡といいます)際に、エネルギーを周囲に撒き散らします。こうして電離(ラジカル生成)が起こりますが、特に飛跡の停止寸前では高い密度で電離を生じます。ということは、DNAの2本の鎖が同じ場所で傷つきやすいということです。これが放射線と化学物質との大きな違いです。更には、ラジカルの密度が高いのでDNA切断だけでなく同時に塩基などにも傷をつける可能性が高くなり複合傷害となって、細胞にとって正しく直すのは大変難しくなります(誤りのある修復は可能)。また、放射線(放出された高速電子)にはDNA分子を直接電離する作用もあります。(Burkart W, Jung T, Frasch G.: C R Acad Sci III. 1999: 322: 89-101を参照下さい)
②「LNTでは安全な閾値はないことになるが、ショウジョウバエの精原細胞では低線量照射により突然変異頻度は非照射対照群よりも低くなった。だから閾値はある」ということでした。これは今後もっと研究されるべき分野と思います。特に、「この自然突然変異を減らすと思われる有益な小線量を繰り返して照射したらどうなるか」に興味があります。本当に無害な線量であれば、繰り返して照射しても影響は変化しないはずでしょう。ヒトにおける例として、むかし結核の治療の際に胸部レントゲン透視(フルオロスコピー)が頻繁に行なわれた時代がありました。こちらは1回の被曝は10ミリシーベルト程度ですから、それ単独の影響は検出できません。しかしフルオロスコピー検査を毎月数回、何年にもわたって行うと乳がんのリスク増加を生じたという報告があります(例えばBoice JD Jr, Preston D, Davis FG, et al. : Radiat Res. 1991;125: 214-22)。つまり10ミリシーベルトの被曝は、単独では検出できないが累積すれば検出できるようになるので、これは閾値とは見なせないでしょう。
③「原爆被爆者のデータの対照群として遠距離の人を採用すると、低線量では発がんリスクが下がる」という説明について:対照を何に求めるかは大事な問題です。ここで提起されている試みには、問題があります。というのは、遠距離の被曝線量ゼロの人の方が、近距離の被曝線量ゼロ(5mSv未満を含む)の人よりも、バックグランドの発がん率が高いということです。これは恐らく都市生活者と農村生活者の違いではないかと思います。5mSv以上の放射線を被曝した人たちは市内生活者ですから、ここはやはり近距離の推定線量ゼロの人を(都市生活者)対照群とすべきではないかと思います。
④「肺がんの放射線治療によって、散乱線を被曝しても2次がんはでていない」ということでしたが、10年程度の観察では影響が見えなくても当然でしょう。影響がはっきりするのには20年はかかりますから。しかし肺がんは予後が悪いのでそこまで観察できる患者さんは少ないでしょう。放射線治療によるがんリスクは、患者の年齢が高いので追跡には限度があるように思います。その点では、小児がんの生存者の情報が役にたつと思います。そして実際2次がんのリスクは生じています(Armstrong GT, Stovall M, Robison LL. Radiat Res. 2010: 174, 840-50. Review.)。放射線治療の後影響として白血病が増えるという事実もあります(Sill H, Olipitz W, Zebisch A, et al.: Br J Pharmacol. 2011: 162: 792-805. Review.)。
⑤ジェット旅客機のパイロットは一般人よりも多く宇宙線をあびるのに、死亡率は高くないといわれますが、パイロットを一般人と比較して放射線の影響を云々するのは正しい方法ではありません。職業従事者は、世間一般よりも健康であることが多いのは疫学の分野ではよく知られていることだからです(Healthy Worker Effectという)。
⑥閾値説あるいはホルメーシス説の根底にある考えのひとつに、「線量が多い場合に細胞はDNAに生じた傷を正しく直せないが、線量が少ない場合には正しく直せるので影響がない」というものがありますが、これも科学的根拠は確定していません。試験管内で少量の放射線を反復照射して突然変異を調べた報告によれば、10~50mSvの間でもほぼ直線的な頻度の増加が見られており、その線量反応の勾配は、高線量域で得られた勾配とほぼ同じであったという論文があります(Grosovsky and Little. PNAS 1985, 82, 2092)。
⑦「自然放射線レベルの高い地域の住民にがんリスクの増加が見られない」:これも統計学的に有意な影響が見られないというだけのことです。インドのケララ地方住民の調査では、10年の追跡調査で累積線量が500mSvを越えるような人は500人くらいなので、これではまだ有意な増加が見られなくても不思議ではありません。影響が検出されないということと、影響がないということは同じではありません。
⑧原爆被爆者の、被曝時年齢とがん死亡の相対リスクのスライドで、「1-4グレイでは明らかに子どもの方がリスクは大きいが、500ミリシーベルト以下では差がない。これは、子どもはDNA修復能力が高くアポトーシス、免疫などの防御機構が健全であるからだ」と言われていましたが、影響の小さい低線量のところを被爆した時の年齢ごとに細分化すれば、人数が少なくなって統計力が下がる(推定リスクの信頼区間が広くなり、差が見られにくくなる)のは自明のことです。また、子どもは大人よりも高線量では影響が大きいのに低線量では影響が同程度というのもおかしな結論ではありませんか?発がんに関するアポトーシスや免疫云々といった説明には、科学的な根拠があるとは思われません。

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