背景
1963年ミシシッピー大学のHardyによる世界で初めての肺移植臨床例の報告以来、1980年までの間に38例の肺移植報告がみられたが、その成績は芳しくなく、肺移植の臨床応用は一時断念せざるをえなかった。しかしながら1970年代後半の移植免疫抑制に有効なサイクスポリンの開発と相まって、肺移植手術や術後合併症防止対策などが進歩し、1980年以降トロントグループによる臨床成功例の発表以来、肺移植が呼吸不全に対する有力な治療法のひとつとして世界で認識されるようになり、現在では日常的に行われている。
我が国においては、1950年代に鈴木・広瀬らによってイヌ自家肺移植研究が開始されて以来、肺移植の臨床応用を目指して実験的研究が続けられてきた。肺移植の手技、拒絶反応の進展機序とその抑制法、肺移植後の感染症、気管支吻合部創傷治癒、肺保存法の開発、移植による肺除神経の病態生理などが大きな研究テーマであった。
1997年10月16日臓器移植法が施行され、脳死下の臓器提供が可能となり、1998年4月移植関係学会合同委員会により東北大学、大阪大学、京都大学、岡山大学が肺移植施設に選定された。2000年3月、初の脳死肺移植が同一ドナーから東北大学(右肺)と大阪大学(左肺)で行われ成功した。1998年10月には岡山大学で日本初の生体肺移植が行われ、2009年1月17日大阪大学では日本初の心肺同時移植が行われた。2010年7月17日改正臓器移植法が施行され、ドナーのご家族の同意のみで脳死下臓器提供が可能となった。
日本肺および心肺移植研究会の創設
「心血管系における移植に関する研究班」(1983年・1984年、主任研究者:東海大学 辻 公美教授)が発展的に解散され、臓器移植に関する研究班の再編成がなされることになったが、研究班の一員であった東北大学抗酸菌病研究所外科(現在東北大学加齢医学研究所)仲田 佑教授が新たに肺および心肺移植の推進のために昭和60(1985)年度文部省科学研究費総合研究(A)「肺及び心肺移植の適応、保存および機能維持に関する研究」を申請した。その助成金が交付されることが決定し、同年7月12日東京において第1回班研究会議が開催された。班会議では研究発表会の名称を「肺および心肺移植研究会」として公開する方向で検討され、毎年1回研究集会を開催し、演題についても研究組織以外からも公募することになった。研究会の名称も1991年より「日本肺および心肺移植研究会」となった
日本肺および心肺移植研究会の活動
日本肺および心肺移植研究会(以下本研究会)は会則に目的・事業について「肺及び心肺移植の諸問題に関する研究を行い、本部における臨床応用への道を開くとともに、日本移植学会、日本呼吸器学会、日本胸部外科学会などの関連学会との密接な連携のもとに、この分野の進歩・発展に寄与することを目的とする。」と謳っている。本研究会は移植関係学会合同委員会や臓器移植関連学会協議会などの関連研究会として肺および心肺移植分野の基礎的資料を提供している。
本研究会は、毎年1回研究会集会を開催し、第9回(1993年)以降、本研究会記録として発表抄録が日本移植学会誌「移植」に掲載されている。また、2004年第20回研究会以後、我が国の肺・心肺移植の当該年のRegistry Reportが作成され、本研究会で発表されるとともにホームページに公表されている。さらに2005年から学会誌「移植」に本邦肺移植症例登録統計報告として発表されている。
なお、2021年Registry Report(ホームページ“レジストリーレポート”参照)によると、我が国で2020年までに行われた肺移植は、生体肺移植251例、脳死肺移植584例(片肺306例、両肺278例)、心肺同時移植3例である。