国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 令和2年度難治性疾患実用化研究事業
高ずり応力を伴う循環器難病に随伴する出血性合併症予知法の開発

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研究背景

 止血必須因子フォンウィルブランド因子(VWF)は巨大多量体として産生され、ずり応力依存的に切断されて2-80分子の多量体として血中に存在します。高分子量領域の多量体が止血機能に重要であり、高分子多量体欠損は出血性疾患フォンウィルブランド病2型となります。最近大動脈弁狭窄症に合併する消化管出血(ハイド症候群)の原因が狭窄弁部での過度に高いずり応力によるVWF高分子多量体欠損による後天性フォンウィルブランド症候群 (aVWS:aquired von Willebrand syndrome)と解明されました(図1,2)。

 


 私たちは31例の重症大動脈弁狭窄症症例を解析しましたが、その大半で血液学的には後天性フォンウィルブランド症候群を発症していることを報告しました(図3)(Tamura et al, J Atheroscler Thromb, 2015)。この研究結果より、我が国では少なくとも数万人がaVWSを合併していると推測されますが、疾患毎のaVWSおよびaVWSが原因となる出血頻度は不明です。診療現場では本合併病態はほとんど認識されておらず、そのためしばしば出血を他の原因によるものとして治療がなされてしまっています。



 大動脈弁狭窄症の他にも、ファロー四徴症や肥大型心筋症、肺動脈性肺高血圧症、慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症等の循環器難病や大動脈弁狭窄症、また末期心不全の治療に用いられる人工心臓等、体内で過度の高ずり応力が生じる病態には、止血必須因子であるフォンウィルブランド因子(VWF)の分解が亢進し(図1)、出血性疾患である後天性フォンウィルブランド症候群(aVWS)を合併することが報告されており、いくつかの疾患については私たちも確認しています。しかしながら、現状ではそれぞれの疾患でのaVWS合併頻度やaVWSが原因の大出血の頻度すら不明であり、診療現場ではどのように対処すべきか、明らかになっているとは言いがたい現状です。



(参考)

 (1)フォンウィルブランド因子多量体解析:後天性フォンウィルブランド症候群(aVWS)は、フォンウィルブランド因子(VWF)多量体解析を用いて診断します。図4では、植え込み型人工心臓装着症例を解析していますが、一緒に解析した健常者と比べて、明らかに高分子量領域の多量体が欠損しています(Sakatsume et al, J Artificial Organs, 2016)



 (2)消化管血管異形成:高ずり応力による止血異常である後天性フォンウィルブランド症候群には、しばしば消化管出血を伴いますが、これは、止血異常存在下の消化管血管異形成からの出血と考えられています。消化管血管異形成は図のように、消化管粘膜に形成される、拡張血管の集蔟より成る、通常径1cm以下の非隆起性病変です(図5)。小腸も含めて消化管のどこにでも発生します。この拡張血管は血管平滑筋細胞をほとんど伴わず、脆弱であり、易出血性です。高齢者にも多いのですが、若い方でも、補助人工心臓装着後しばらくすると発症するので、血流異常が根底にあると考えられています。原因に関しましては、もともと血管新生抑制作用を持っているフォンウィルブランド因子の異常によるという説と、消化管粘膜の血流低下・脈圧低下によるという説があり、確定していません。今日でもほとんどその発症メカニズムは不明であり、研究の進展が待たれています。


研究目的

 本研究では、多施設共同前向き臨床研究 The aquired von Willebrand syndrome co-existing with cardiovascular diseases Study(The AVeC Study)を進め、上記の難病を含む循環器疾患に随伴する後天性フォンウィルブランド症候群を体系的に評価し、aVWS合併の実態を解明し、診断基準・重症度分類を確立することを目的としています。

 本研究では、計約2,500例を登録して、前向きに2年間観察し、横断的及び縦断的解析によって、上記循環器疾患におけるaVWSの頻度、大出血をきたす状況・頻度、出血予知のためのVWFマルチマー指標等を明らかにします。令和2年度は症例登録を継続し、経過を追跡します。この疾患を対象とした多施設共同前向き臨床研究は世界的にも初めてであります。また、VWF多量体解析は50万~2,000万ダルトンという超巨大分子を解析するウェスタンブロットであり、高度な技術を要するため施行可能な研究室は限られています。それぞれの研究室で独自の方法で行われてきており、本研究では平成28年度中にその方法を標準化し、さらに定量法を構築して、症例の解析にあたっています。臨床成績に裏付けられた定量指標は、診断および治療選択に大いに参考となるでしょう。さらにその指標を基にした診断基準・重症度分類を構築することによって本病態の医療は大きく進歩すると確信しています。また、植込型補助人工心臓等の機械的補助循環でaVWS発症を来す設定を機種毎に明らかにできれば重症心不全治療の向上につながり、新規の補助循環機器開発時には重要な参考データとなると確信しています。