東北大学呼吸器外科は、1950年に抗酸菌病研究所外科学部門として発足し、わが国の呼吸器外科としては最も長い歴史を有する教室の一つです。私は2015年4月に、近藤 丘前教授の後を受け、5代目の教授・科長として着任いたしました。現在、教室としては加齢医学研究所呼吸器外科学分野として、診療科としては東北大学病院呼吸器外科として活動させていただいております。

 当科は、肺、縦隔、胸壁などの胸部疾患のうち、外科的治療を要するものを診療の対象としています。主な対象疾患は肺癌、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、気胸、胸膜悪性中皮腫、終末期慢性進行性肺疾患(肺移植)などです。2012年4月から、病棟16階に呼吸器センターが開設され、呼吸器外科と呼吸器内科が同じフロアで入院診療を行うこととなりました。両科の連携による集学的治療を精力的に進めています。2022年1月〜12月の手術件数は全年に比べて大幅に増加し、過去最多の357件となりました。

 当科では、2023年4月現在9名の呼吸器外科専門医を擁し、手術の前週には科長以下スタッフ全員による術前カンファレンスを行うなどして、お一人お一人の病状に応じた最善の外科治療をご提示できるよう心がけています。肺癌の手術においては、大部分の手術において4cm程度の創で行う完全胸腔鏡下手術またはロボット支援下手術を適用しています。進行癌に対しては、開胸下に気管支形成術・血管形成術なども積極的に行っています。健康診断などで発見された一般的な肺癌疑いの患者さんは勿論のこと,外科治療の対象となる可能性のある進行癌の患者さん、化学放射線療法後のサルベージ手術の対象になりそうな患者さんなども、どうぞご遠慮なくご紹介をいただければ幸いです。

 また,東北大学病院は全国に11カ所ある肺移植実施施設の一つに認定されており、東北・北海道においては唯一の肺移植施設です。2000年の本邦初となる脳死肺移植以来、2022年12月までに160例の肺移植(脳死肺移植:144例,生体肺移植:16例)を施行いたしました。肺移植後の5年生存率は約75%であり、国際登録の成績(5年生存率約55%)を凌駕する良好な成績が得られています。肺移植の適応と患者さんのご紹介の手順については別項に記載しましたのでご参照いただけましたら幸いです。 当教室の研究の主なテーマは、別項にも示しました通り肺がんと肺移植に関わるものです。手術成績向上を目指した臨床研究はもとより、多くの基礎・臨床研究分野のご協力のもと、肺癌や難治性呼吸器疾患の分子生物学的・病理学的研究、肺保存に関わる研究、虚血・再灌流性肺障害に関わる研究、肺移植後急性・慢性拒絶反応に関わる研究などを展開しています。特に免疫学は、がん研究と臓器移植研究にまたがる分野であり、当教室の研究のメインテーマとなっています。様々な肺疾患に対する細胞治療も早期の臨床応用を念頭に置いて基礎研究を展開しています。さらに、肺組織の再生に関わる研究、幹細胞から肺を作り出す研究、当研究所の使命である加齢医学研究すなわち加齢に伴う肺組織の変化が様々な疾患・病態にどのような影響をもたらすかについての研究にも力を入れています。大学院生は、2023年4月現在で11名です。

 当教室は、今後も、肺癌などの一般呼吸器外科と肺移植を診療・研究の両輪として、日本ならびに世界の呼吸器外科の発展のために、そして地域の皆様のお役にたてるよう全力で努力して参ります。


2023年4月 岡田 克典