本施設の沿革

癌研究に癌細胞株は重要な研究資材である。その維持、保存は従来、各研究者に委ねられてきた。しかし、近年のライフサイエンスの進展と相まって細胞株の管理保存、供給体制の確立を求める声が高まってきた。本研究所は1965年、研究の主点を癌制圧におくことを表明した。それと共に肺癌研究部門に、故吉田富三博士、佐藤春郎博士及び門下生の先生方が樹立された可移植性の腹水癌細胞株(吉田肉腫,AHシリーズ)などを中心とした腫瘍銀行を発足させた。

これはわが国における細胞バンクの先駆けであり、全国の研究に多大の貢献を果たしてきた。1984年4月、当時の中曽根首相の提唱による癌制圧のため10カ年計画の構想の一環として、上記の腫瘍銀行を母胎とした本施設が設立され、1985年3月に研究所本館に隣接した場所に専用の建物が竣工した。

1993年、本研究所は加齢医学研究所に改組され、癌、神経疾患など、加齢に伴う遺伝的プログラムの破綻による疾患発生のメカニズムの 解明などの研究が開始された。

そして、1999年6月、『学術研究用生物遺伝資源の活用について』と題する学術審議会答申や、本施設が学術審議会情報資源分科会、学術資料部会で動物細胞センターと認定されたことなどを背景として1997年9月、癌細胞保存施設は発展的に医用細胞資源センターに改組された。また、研究所の改修に伴い、2002年5月、プロジェクト総合研究棟の現在の場所に移転した。

種々のヒト癌細胞、正常細胞、動物腫瘍細胞、正常機能保持細胞、単クローン抗体産生ハイブリドーマ細胞の新たな細胞株を樹立開発するとともに貴重な 細胞の収集に努め、細胞保存、供給、品質管理、データベース構築、インターネット公開を行い、細胞バンクとして実績をたかめてきている。

また、文部省科学研究費がん重点研究資材班の援助のもとに可移植性腫瘍細胞の情報の提供の役割を果たすため『日本で維持されている可移植性腫瘍株一覧表』の調査、編集発行を行ってきた。

これまで、日本全国のみならず、外国の研究者にも多数供給され、研究の発展に貢献してきた。本施設は国立大学の中で、唯一の癌細胞バンクであり、国内外の研究者に多数の細胞株を供給してきている。